飼い主から飼育放棄された犬、家へ帰れなくなった迷い犬、市街地などをさまよう野良犬…やがては殺処分されていたかもしれない犬たち。
そんな犬たちを保護し、家庭犬として生き直すための社会化トレーニングを、少年院で同じ過ちを繰り返さないための教育を受ける少年たちに託す。
――それが、日本で初めての動物が介在する矯正教育プログラム、ヒューマニン財団オリジナルの「GMaC(ジーマック)プログラム」です。
春まだ浅い九十九里の海辺の街に、ヒューマニン財団の飼養訓練センター「ヒューマニンハウス」を訪ねました。
ライター
現在、“在宅部長”こと2代目保護猫と暮らしながら、nademoの記事を書かせていただいています
プレゼント企画やお友だち限定企画も用意してありますので、友だち追加お待ちしております!
ヒューマニン財団の「GMaCプログラム」とは?
犬が人間と暮らしていくために欠かせないしつけとして、「社会化トレーニング」があります。
家庭犬として暮らすには、飼い主さんと意思の疎通ができ、社会生活の中で出会うさまざまな物事、人、他のペット、音などにも慣れなければいけません。
そのトレーナー役に任命されるのが、八街少年院の少年たち。3ヶ月にわたって1日90分、20ものコマンド(指示)を駆使して保護犬たちを訓練します。
少年たちにトレーニング方法を指導するのは、ヒューマニン財団のドッグトレーニングインストラクター・鋒山佐恵さん。
また、週末は、保護犬たちは地域ボランティアのサポートファミリー宅で過ごし、少年たちとサポートファミリーは交換日誌で犬の様子を報告し合います。
「GMaC(Give Me a Chance)」と名付けられたこのプログラムは2014年からスタートし、2023年12月には第20期を迎えました。
訓練することに意味がある
少年たちが問題行動を起こしたり犯罪に手を染めたりする根本原因には、自己肯定感の低さがあると言われます。
勉強に追いつけない、親や教師に認められない、友人ができない、仕事が続かない、居場所がない…承認欲求や虚勢から非行に走るケースも多いそう。
一方、GMaC犬は、茨城県動物指導センターや千葉県動物愛護センターから鋒山さんが引き出した保護犬たち。
人間と触れ合う経験がなかったり、飼い主に見捨てられたりして、保護犬は人間に対して警戒心を抱いていることも少なくありません。
もっとも、犬たちは自分を訓練するトレーナーが罪を犯しているなんて知りもしませんし、犬にとっては大した問題ではありません。
保護犬たちにとって重要なのは、相手が自分に対して真摯に向き合ってくれるかどうかです。そうでなければ、言うことを聞きません。
ペアやチームでプログラムに臨む
そうそう思い通りにはならない保護犬たちですが、だからと言って、犬を乱暴に扱ったり暴力を振るったりする少年は今までひとりもいなかったそうです。
このプログラムは少年1名と保護犬1頭がペアになり、3~4ペアのチームで行います。1頭が問題を起こせば、チームで話し合い、解決策を見出します。
また、筆記と実技の中間試験や修了試験もあります。実技はもちろん、トレーナーである少年とパートナーの保護犬が力を合わせなければできません。
試験に合格し、プログラムを無事修了すると、少年たちの自己肯定感が多少なりともアップしているそうです。
これは、保護犬にごはんをあげたりトイレを片付けたりという単なるお世話では得られない、トレーニングだからこその効果だと、鋒山さんはおっしゃいます。
TVドキュメンタリー番組やSNS動画でも大反響
ヒューマニン財団のGMaCプログラムは、これまで何度もテレビ、新聞、雑誌などに取り上げられてきました。
2023年11月には、ANN(テレビ朝日)系列のドキュメンタリー「テレメンタリー」で、八街少年院における3ヶ月間のトレーニングを追う番組が放送されました。
その後、番組の動画はYouTubeにアップされ、視聴回数はなんと25万(2024年3月18日現在)。
少年たちと保護犬がタッグを組んで共に再生の道を目指す姿は、多くの人の心に感動を呼んでいます。
法務省・ヒューマニン財団・鋒山さんの思いが一致
GMaCプログラムは八街少年院の状況に合わせて、ヒューマニン財団のドッグトレーニングインストラクター・鋒山さんがプランしたものです。
実は、米国ではすでに「プリズンドッグ」や「ペットパートナーシップ」といった、囚人による保護犬の訓練プログラムが普及し成果を上げています。
鋒山さんは前職でこうしたプログラムのひとつである介助犬トレーニング研修のため米国へ渡り、実際に介助犬を育成するプログラムも経験されています。
そして、広いアメリカで運命的に出会ったのが、フォトジャーナリストでノンフィクション作家の大塚敦子さんです。
大塚さんはワシントン州女子刑務所での介助犬訓練プログラムなどを取材し、帰国後、法務省「少年院における動物(犬)介在活動等検討会」委員に就任。
時を同じくして、ヒューマニン財団の現・代表理事がペットの殺処分ゼロを目指し、人と社会に貢献する犬の育成施設設立を志し動き出していました。
そして、法務省と財団前身の双方から、鋒山さんに白羽の矢が立てられたのです。
米国での運命的出会いがこのプログラムを生んだ
米国での大塚さんとの出会いがなければ、自分が関わることもなかったし、GMaCが誕生することもなかったかもしれないと鋒山さんはおっしゃいます。
GMaCというプログラム名も、実は鋒山さんのネーミング。Give Me a Chance(僕にチャンスを!)には、少年たちと保護犬たちの再出発への希望が込められています。
なお、ドッグトレーニングインストラクターとはドッグトレーニング法を指導する専門家で、鋒山さんは日本ではまだ数少ないそのひとりです。
GMaCプログラムでもインストラクターに徹し、鋒山さんが直接犬の訓練を行うことはありません。つまり、少年たちはゼロから保護犬の訓練をするのです。
社会貢献としての保護活動を推進する「ヒューマニン財団」
ヒューマニン財団は公益財団法人です。公益財団法人とは、その名の通り公益性、すなわち広く社会一般に利益・恩恵をもたらすために設立されます。
「公益社団法人及び公益財団法人の認定等に関する法律」に基づき、主に以下のような条件をクリアしなければ公益財団法人にはなれません。
- 公益目的事業を行うことを主たる目的としていること
- 公益目的事業を行うのに必要な経理的基礎および技術的能力を有するものであること
- その事業を行うにあたり、社員、理事、監事、使用人その他のその法人の関係者に対して特別の利益を与えないものであること など
また、公益財団法人になるには、まず一般社団法人または一般財団法人を立ち上げる必要があります。
その後、公益性の審査を経て、内閣府または都道府県の行政庁の公益認定を受けなければなりません。
ヒューマニン財団も2014年に一般財団法人設立後、2016年に内閣府より公益財団法人に認定されました。
「人とペットが幸福な共生社会」を目指して
環境省によると、2022年4月1日~2023年3月31日における、保健所や動物愛護センターなどへの犬の引き取り数は日本全国で22,392頭。
このうち飼い主からが2,576頭、所有者不明が19,816頭、そして殺処分数は2,434頭となっています。
2004年の犬の殺処分数は155,870頭、ヒューマニン財団が発足した2014年には21,593頭でしたから、年々減少してはいますが、まだゼロではありません。
ヒューマニン財団では人に寄り添い、社会に役立つ保護犬の育成を続けていくことで、「社会的殺処分ゼロ」を目指しています。
ワンちゃんたちが家庭や社会で必要とされれば、飼育放棄や殺処分という考え自体なくなっていくはずだからです。
これまでの10年間でGMaC犬をはじめ、80頭余りの保護犬がヒューマニン財団から家庭へ引き取られ、生涯の家で飼い主さんに愛され、幸せに暮らしています。
2018年に飼養訓練センターが九十九里の別荘地へ移転
当初、飼養訓練センターは千葉県富里市に設置されていましたが、2018年に千葉県山武市へ移転。
九十九里の穏やかな気候に恵まれ、全長66kmに及ぶ太平洋に面した砂浜まで徒歩約5分という、犬たちのお散歩にも最適な別荘地にあります。
センターの建物も元は別荘だったそうで、広々とした前庭は3ヶ所のドッグランに区切られ、保護犬たちの訓練や遊び場として使用されています。
見学ご希望の場合は、お申込みフォームからお問い合わせを。60分程度の見学が可能です(HPの注意事項をあらかじめお読みください)。
環境に恵まれた施設で個性を伸ばすトレーニング
人間同様、ワンちゃんたちにも得意・不得意の個性があります。1頭1頭のその個性を見極めて、伸ばしてあげることが大切だと鋒山さんはおっしゃいます。
たとえば、GMaC向きの子、しつけ教室などのデモンストレーション向きの子、お子さんの遊び相手向きの子、グループホームのセラピー犬向きの子…など。
どの子も「お手」「お座り」など20のコマンドによる基本のトレーニングを身につけ、さらに担当トレーナーによって個性を引き出す訓練も行われます。
ヒューマニン財団では、最低でも3ヶ月~1年のしつけとトレーニングを行い、その子の個性を把握してから里親さん募集を行っています。
トレーナー&インストラクターは経験豊富なスペシャリスト集団
2024年3月現在、ヒューマニン財団の九十九里飼養訓練センターでは、4名のドッグトレーナーが16頭の保護犬のしつけや訓練を行っています。
アメリカでキャリアを積んだ鋒山さんをはじめ、補助犬育成に携わった経験のある、いずれも知識と実績の豊富なプロフェッショナルです。
さらに、庶務業務担当職員が1名、東京都杉並区の本部では職員1名がすべての事務業務を担当しています。
財団の理念・活動にご賛同くださり、活動のお手伝いをしていただけるボランティアさんを常時募集中!
また、活動賛助会員(ヒューマニン・フェロー)としてのご入会やご寄付(ドネーション)も、もちろん大歓迎とのことです。
Amazonほしいものリストも、ぜひチェックしてみてくださいね。
どんな条件でも犬と暮らすことをあきらめないで!
保護犬を引き取ってみたい。でも、ひとり暮らしだから、65歳以上だから、7歳未満の乳幼児がいるから、介護中だから…などと、あきらめていませんか?
ご家庭にどんな事情があろうとも、愛犬と終生暮らすお気持ちがあるなら、「あきらめる前にヒューマニン財団へご相談ください」と、鋒山さん。
他の保護団体などで断られた場合でも、なんとか飼える方法はないかご一緒に考え、場合によってはご家庭の事情に合わせた訓練もしてくれるそうです。
役割を得ることで愛犬は家族の一員になる
トレーニングを通して「家庭犬にも役割を持たせることが大切」というのが、ヒューマニン財団と鋒山さんのお考え。
お父さん、お母さん、お子さんそれぞれにお皿洗い、掃除などの役割があるように、犬も役割を持てば単なるペットではなく家族の一員になれるからです。
たとえば、耳の遠いお年寄りにドアチャイムが鳴ったのを知らせたり、お料理している間だけお昼寝中のベビーを見張ってくれたりしたら、助かりませんか?
盲導犬や聴導犬、介助犬とまではいかなくとも、保護犬だって「いてくれて助かった」と思われるような家庭犬として活躍することができるのです。
そういったご家庭の事情に合うワンちゃんの個性を伸ばし、家族の一員としてお役に立つ訓練もしてくれます。
保護犬をお迎えするのをあきらめる前に、ぜひヒューマニン財団にご相談されることをおすすめいたします。
セカンドオーナー&ヒューマニンペッツオーナーになるには
ヒューマニン財団では、里親さんのことをセカンドオーナーさん、特別なご事情のある里親さんをヒューマニンペッツオーナーさんと呼んでいます。
いずれの場合も保護犬のお迎えをご希望でしたら、まずはヒューマニン財団へお問い合わせ・ご相談を。
または、「ペットのおうち」や「OMUSUBI」で里親さん募集を行っている場合もあります。
ヒューマニン財団の職員がご家庭の事情やご要望をお聞きし、相性の良さそうな子とお引き合わせします。
ただし、引き取りを決心されても、通常のトレーニングに加え、ご家庭の事情に合わせた訓練を行うので、3ヶ月~1年はお待ちいただく場合もあります。
訓練期間を経て、まずは2週間のトライアル。その後、正式譲渡となります。
ヒューマニン財団では譲渡後も、お迎えした子の終生に渡って年1回アンケートを行い、相談に乗ってくれるので、初めて保護犬を迎える方も安心。
これまで正式譲渡後にうまくいかなかったケースは一度もないそうで、ワンちゃん、飼い主さん、そのご家族も、皆さん幸せに暮らしているそうです。
ヒューマニン財団の詳細
公益財団法人 ヒューマニン財団
千葉県山武市松ヶ谷ロ3318-13
- 目安予算
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- アクセス
- JR外房線・JR東金線・成東駅よりちばフラワーバス・海岸線で約30分
- 営業時間
- 日曜・祝日を除く10:00~17:00
おすすめポイント
保護犬と会える
譲渡相談ができる
その他店舗データ
お問い合わせ | 03-3329-2900(本部)/0475-84-1139(センター) |
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予約可否 | 要予約 |
定休日 | 年末年始を除く年中無休 |
施設の詳細
公式サイト※本記事は2024年3月時点の情報です。掲載情報は現状と異なる場合がありますので、事前にご確認ください。
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この記事の執筆者
楠 涼
ライター
現在、“在宅部長”こと2代目保護猫と暮らしながら、nademoの記事を書かせていただいています。
また、キャットヘルスケアアドバイザー資格取得にチャレンジ中ですので、皆様の愛猫の健康生活に役立つ情報をお届けしてまいりたいと存じます。
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