猫に多い病気といえばやはり腎臓病ですが、腎臓と同じく生きていく上で必要不可欠な働きをしている臓器である“肝臓”を悪くしてしまう子もいます。
特定の病気にかかった場合、食事内容が変わることも多く、療法食を選択することになる可能性もあります。
ではそうなった場合、療法食はどんなタイミングで始めるべきなのか、正しい選択をするための知識を学びましょう。
今回はそんな肝臓を悪くした猫の食事にフォーカスを当て、肝臓病の成り立ちから症状、療法食まで詳しく解説をしていきます。
この記事の結論
- 肝臓は有害物質を無毒化したり、生命活動を維持する上で必要不可欠な働きを担っている
- 猫は「食事をしない」というだけでも肝臓に負担がかかる動物
- 食欲不振や元気消失、急激な体重減少や嘔吐・下痢などが症状のひとつとして見られる
- 肝臓病の疑いがあったらまずは動物病院へ行き、獣医師の指示があれば療法食を選択する
目次
そもそも猫の肝臓病とは?

肝臓は栄養素の代謝や合成、有害物質の無毒化、ビタミンやミネラルの貯蔵など生命活動を維持する中で実にさまざまな働きを担っている重要な臓器です。
そんな肝臓が肝炎などによって傷害を受けると、その機能を担っている肝細胞がダメージを受け肝機能の低下が起こります。
しかし腎臓などと異なり、肝臓は再生能力が高く治療を通してきちんとコントロールできれば肝機能の低下を抑えることができます。
また、猫に特徴的な肝臓病として肝リピドーシスという病気があります。これは2~3日の間全く食事をしないと肝臓に過剰に脂肪が蓄積され肝機能が低下するというもので、肥満猫ほど発症するリスクが高まります。
つまり、猫は食事を食べないだけでも肝臓に負担がかかるのです。
何か他の病気が原因で数日間食欲がない場合に併発することもあるので、猫の肝臓病は全ての病気と関係があると言っても過言ではありません。
うちの猫は肝臓病?

下記に該当するようなものが見られたときには、肝臓病を疑うことになります。
- 食欲が落ちる、なくなる
- 急激に体重が減る
- 嘔吐や下痢
- 元気がなくなる(沈うつ)
これらは肝臓病で見られる代表的な症状と言われていますが、どれも他の病気でも見られることが多く、あまり特徴的な症状ではありません。
一方で、肝臓病に特徴的な症状としては、“黄疸(おうだん)”が挙げられます。
黄疸とは肝機能の低下により血液中のビリルビンという物質が過剰に増え、身体が黄色く見える状態のこと。
身体が黄色く見えると言っても、猫には毛があるので皮膚の色ではなかなか分かりづらく、白目や歯茎、耳の内側の皮膚で判断することが多いです。
また、おしっこが異常に黄色くなるという場合もあります。もし愛猫がこれらの症状に何個も該当するようであれば今すぐ動物病院の受診を考えてあげてください。
愛猫の「肝酵素値が高い」と言われたら

健康診断の血液検査などでしばしば見られる“肝酵素値”の上昇。獣医さんから説明を受ける際に、「肝酵素値が高いですね」と言われたことがある飼い主さんもいらっしゃるのではないでしょうか?
実はこれ、必ずしも肝臓が悪いというわけではないんです。
肝酵素値の上昇はもちろん肝臓が悪くなって起こることもありますが、それ以外の原因で上昇することも多いです。
例えば細菌感染やホルモンの分泌異常など病的原因から、何か薬を飲んでいたり、おやつの食べ過ぎなどの原因でも上昇することがあります。
ですので、健康診断で肝酵素値が高いからすぐに“肝臓が悪い”というわけではなく、生活環境など他の心当たりがないかよく調べてから再検査を考えてあげましょう。
猫の肝臓病療法食の特徴

では肝臓病療法食はどういったポイントに配慮されたフードなのでしょうか?肝臓病療法食の栄養バランスとその特徴を解説します。
タンパク質
タンパク質は代謝されて、身体にとって有害なアンモニアが生まれます。
アンモニアは通常、肝臓で代謝されますが、肝不全では十分に分解することができません。
肝臓病療法食では良質なタンパク質を少なく配合することで、アンモニアの発生を抑える設計がされています。
銅
肝臓に銅が蓄積することにより肝障害が起こることがあるので、肝臓病療法食では一般的なフードよりも銅の含有量が少なく設計されています。
高脂肪・高カロリー
肝不全が起きている猫では、食欲があまりなくどんどん痩せていくことが多いです。
そんな食べられる量が少ない場合でもエネルギ一を取りやすくするため、脂肪の配合を高くして高カロリーになるよう設計されています。
猫の肝臓病療法食を始めるタイミング

特定の病気にかかったら療法食を選択することになる可能性もありますが、では肝臓病療法食はどういった場合に食べさせるべきなのでしょうか?ここで先ほどの肝酵素値の上昇が関係してきます。
肝酵素が上がっているというだけでは肝臓が悪くないことも多くあるので、実はそういった子に肝臓用療法食を食べさせると返って身体に悪い影響を与えてしまいます。
肝臓病療法食はいわゆる肝不全、つまり肝臓の機能が一定以上低下し、うまく働いていない場合に食べさせるべきフードです。
療法食は獣医師の指示があった場合に選択する
そもそも食事療法は獣医さんが診断、指示をして初めて食べさせるものになります。
「愛猫の調子が悪い」「気になるところがある」という場合にはまず動物病院を受診し、愛猫の状態を確認してもらいましょう。
その上で療法食を選択するかどうかは、獣医師の指示があったときに食べさせ始めることになります。
Amazonや楽天といった通販サイトでも購入できますが、まずは獣医師の指示を受けるようにしてください。
自己判断では悪影響を与える可能性がある
飼い主さんの判断で本来必要のない子に療法食を食べさせると栄養バランスが偏り、痩せてしまう原因になってしまいます。
療法食では特定の成分を減らしたり増やしたりして作られているので、健康的な子にとっては栄養バランスが偏ってしまうのです。
自己判断で「なんだか体調が悪そうだから療法食にしてあげよう」と療法食を始めてしまうと、かえって体調が悪化することもあるのです。
必ず獣医師に必要であるものかどうかを確認し、そのうえで判断するようにしてください。
愛猫が療法食を食べない場合の対処法:食欲を引き出す具体的なアプローチ

猫の肝臓病において療法食は非常に重要ですが、病気の影響で食欲が落ちたり、療法食の味や匂いを嫌がったりして、なかなか食べてくれないことも少なくありません。
しかし、必要な栄養を摂取させることは治療の要です。ここでは、愛猫が療法食を食べてくれない場合に試せる、具体的な対処法を詳しく解説します。
フードを温めて香りを立たせる:嗅覚を刺激する
猫は嗅覚が非常に優れており、匂いが食欲に大きく影響します。特にウェットフードは、温めることで香りが立ち、食欲を刺激しやすくなります。
- 人肌程度(約30~40℃)に温めるのが理想的です。熱すぎると猫が舌を火傷したり、栄養素が損なわれたりする可能性があるので注意が必要です。
- ウェットフードの場合: 耐熱皿に移し、電子レンジで数十秒温めるか、湯煎で温めます。温めムラがないよう、途中で混ぜて温度を均一にしましょう。
- ドライフードの場合: 少量のぬるま湯(人肌程度)を加えてふやかし、香りを立たせる方法もあります。
- 温めた後の確認: 必ず飼い主さんの指で温度を確かめ、熱すぎないか確認してから与えましょう。
ウェットフードとドライフードの混ぜ方やトッピングの工夫:嗜好性を高める
療法食にはドライタイプとウェットタイプがあります。それぞれの特性を活かして、愛猫が食べやすいように工夫しましょう。
混ぜ方と割合
- ドライフードへのトッピング: 普段食べているドライフードの上に、嗜好性の高いウェットタイプの療法食を少量乗せてみましょう。ウェットフードの匂いがドライフードに移り、食いつきが良くなることがあります。
- 混ぜ合わせる: ドライとウェットを均等に混ぜ合わせることで、全体的に嗜好性を高められます。ただし、ウェットフードの量が増えすぎると、ドライフードへの依存度が下がる可能性もあるため、最初は少量から始め、徐々に割合を調整していくのがおすすめです。
- ペースト状にする: ウェットフードをさらに細かく潰してペースト状にしたり、少量の水を加えてなめらかにしたりすると、食べやすくなることがあります。
工夫のヒント
- 食欲増進剤との併用: 獣医師と相談の上、食欲増進剤をフードに混ぜることも検討できます。
- 嗜好性の高いトッピング: ごく少量の嗜好性の高い猫用おやつや、鶏むね肉の茹で汁(無塩)などをフードに混ぜて、香りと味をプラスする工夫も有効です。ただし、肝臓病の猫には、高タンパク・高リンの食材は避ける必要があるため、必ず獣医師に確認してから行ってください。
少量ずつ複数回に分けて与える:胃腸への負担を軽減
一度にたくさんの量を与えようとすると、猫が拒否したり、吐き戻したりすることがあります。特に肝臓病の猫は消化器への負担も考慮が必要です。
頻繁な給餌
1回の食事量を減らし、1日に数回(4~6回程度)に分けて頻繁に与えるようにしましょう。これにより、猫は常に新鮮なフードを食べることができ、消化器への負担も軽減されます。
新鮮さを保つ
少量ずつ与えることで、フードが長時間食器に出しっぱなしになるのを防ぎ、新鮮さを保てます。食べ残しはすぐに片付け、食器も清潔に保ちましょう。
強制給餌が必要になる場合のサインと獣医師への相談:最終手段と医療判断
上記の工夫をしても全く食べてくれない場合、強制給餌が必要になることがあります。これは猫の命に関わる状態であるため、自己判断せず、必ず獣医師の指示に従ってください。
強制給餌が必要になるサイン
- 24時間以上全く何も食べていない、飲んでいない: 猫は24時間以上絶食すると、肝臓に負担がかかり「肝リピドーシス(脂肪肝)」を発症するリスクが高まります。これは非常に危険な状態です。
- 体重の急激な減少: 食事量が少ない状態が続き、体重が目に見えて減っている場合。
- 元気がない、ぐったりしている: 食欲不振だけでなく、活動量が著しく低下している場合。
- 嘔吐や下痢を繰り返している: 消化器症状が重く、口からの栄養摂取が難しい場合。
獣医師への相談と指示
上記のサインが見られたら、すぐに動物病院に連絡し、状況を伝えましょう。獣医師は、猫の症状や病状に応じて、以下のような判断をします。
- 強制給餌の具体的な方法: シリンジやスポイトを使った流動食の与え方、適切な量、頻度などを指導します。
- 点滴や入院: 脱水や栄養失調が深刻な場合は、点滴による水分・栄養補給や、入院による集中治療が必要になることもあります。
- 食道チューブの設置: 長期的に自力での食事が難しいと判断された場合、食道にチューブを設置し、そこから直接流動食を供給する方法を提案されることもあります。
愛猫が療法食を食べてくれないのはつらい状況ですが、粘り強く様々な方法を試すことが大切です。どんな場合でも、獣医師との密な連携が最も重要です。
決して自己判断で無理強いせず、専門家のアドバイスを受けながら、愛猫に最適な方法を見つけていきましょう。
まとめ

昨今、療法食でもペットショップやネット通販などで飼い主さんが簡単に購入できるようになっています。しかし、本来は獣医さんが診断、指示をして開始するのが食事療法です。
商品名も肝臓サポートなど手に取りやすいものが多く、健康診断で肝酵素値が高かったからと飼い主さん判断での療法食は悪影響があることもあります。
肝臓病は肝臓の再生力が高いあまり、進行しないと症状が出にくい病気。まずは定期的な健康診断で愛猫の今の状態を把握し、病気が隠れていないかチェックしましょう。
もし食事療法が必要な場合であれば、獣医さんとよく相談して食べさせてあげるフードを考えましょう。
この記事の執筆者・監修者
獣医師/潜水士/株式会社Ani-vet代表取締役/犬猫生活財団評議員
獣医学生時代に保護猫を迎えたことから猫にどハマりして、今では3頭の元保護猫と暮らしています。
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