犬の病気・健康

【獣医師執筆】犬が口呼吸をしている?その原因や病気の症状

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「呼吸」は、犬や猫など多くの生物が生命を維持するために欠かせない機能のひとつです。

そんな呼吸が異常をきたしていると、飼い主さんも「病気かも!?」と心配になりますよね?

別な注意が必要であり、ときにはわずかな治療の遅れが生死をわけることもあります。

この記事では、犬が口呼吸をする理由や考えられる病気、病気を見分けるポイント、対処や予防法について解説します。

この記事の結論

  • 犬は基本的に口呼吸ができない動物であるため、口呼吸をしているなら問題がある状態といえる
  • 安静時の愛犬の呼吸数を知っておくことで、異常があったときに気づきやすくなる
  • 体温調節のためにパンティングという口呼吸を行うことはあるが、パンティングは正常なもの
  • ストレスが原因となって口呼吸をする場合もある
  • 口呼吸については、緊急性が高い病気が潜んでいるケースもあるため注意が必要

西岡 優子

執筆・監修

西岡 優子

ライター/獣医師

北里大学獣医学科を卒業後、出身の高知県近県である香川県の動物病院にて、小動物の診療に携わる。
結婚を機に、都内の獣医師専門書籍の出版社で編集者として数年勤務し、現在は動物病院で時短で獣医師として働く傍ら、犬・猫・小動物系のライターとして活動している。

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犬は基本的に鼻で呼吸をしている

人は鼻と口で呼吸ができますが、人以外の哺乳類は口呼吸があまりできないのです。

犬は基本的に鼻から呼吸をしており、ハァハァと浅く速い「パンティング」と呼ばれる口呼吸をすることもありますが、ほとんど空気は肺に達しません。

激しい運動をしたときや長時間の散歩をした後は、こうしたパンティングが見られることもあるものの、あくまでこれは体温調節のためであるのが一般的。

口呼吸をしているように見えるのは、酸素を吸い込んでいるのではなく、体内の熱を吐き出しているのです。

犬の正常な呼吸数は1分間に10回~35回程度

通常、犬の安静時の正常な呼吸数は1分間に10回~35回程度です。ただ、小型犬は比較的多く、大型犬は少ない傾向があります。

呼吸数は「吸って吐いて」の1セットを1カウントと考え、愛犬がリラックスしている時にお腹の動きを見たり、体にそっと手を添えたりして、安静時の呼吸数をカウントして知っておきましょう。

この時、愛犬の呼吸を1分間ずっと数え続けるのは難しいため、10秒間でのカウントを6倍することがおすすめです。

犬が口を開けて呼吸することを「パンティング」と言う

犬が口を開けて舌を出し「ハァハァ」と荒い呼吸を繰り返すことを、パンティングと言います。

パンティングは、体内の熱を逃がして体温調節するための行動です。

人は体温が上昇すると全身に汗をかき、それが蒸発するときの気化熱で体温を下げることで、体温調節をしています。

しかし、犬は人と違ってほとんど汗をかかないため、「ハァハァ」と口呼吸をすることで、体内の熱を吐きだし、涼しい空気を吸いこみ体温を下げようとします。

また、舌や口の中の唾液を蒸発するときに起こる気化熱を利用し、体温を下げているのです。

犬が口呼吸をする理由

酸素を取り込む目的ではなくとも、病気ではなくても、犬は口呼吸をすることがあるのです。

その理由について、ここでは解説していきます。

体温調節をしている

上で述べたように、人は全身に汗をかくことで体温調整をすることができますが、犬は体のごく一部にしか汗をかけず、うまく体温調節を行うことができません。

そのため、犬は口を開けてハァハァと呼吸するパンティングという口呼吸により、体温調節を行っているのです。

短時間で終わっていたり、他に異変がなければ、特別心配する必要はありません。

気持ちを落ち着かせている

犬は恐怖や緊張、不安などからストレスを感じると、交感神経が優位になります。そして一時的に呼吸が荒くなり、口呼吸をすることがあります。

恐怖や不安の原因が取り除かれたり、時間が経過して緊張がほぐれて口呼吸が落ち着くようであれば、精神的要因からのストレスが原因の可能性が高いと言えます。

この場合にはストレスの原因を取り除く必要があるため、環境の変化やストレスになりやすい原因を見つけてあげましょう。

鼻詰まりをおこしている

鼻詰まりによる口呼吸は短頭種でよく見られ、就寝時にいびきをかいたり口が半開きになったりします。

しかし、短頭種以外でも細菌や真菌などの感染や、アレルギーなどが原因で鼻の内部に炎症や腫れが生じます。

その他にも、腫瘍や異物混入により鼻詰まりを起こし、口呼吸になる可能性があるのです。

口呼吸をしやすい犬種

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実は、犬の種類の中には元々、口呼吸をしやすい犬種というのが存在します。

ここでは、口呼吸をしやすい犬種や年齢について解説していきます。

短頭種

以下のような短頭種と呼ばれる鼻が短い犬種では、生まれつき気道に異常がある可能性が高いです。

具体的には、鼻の穴が狭い「外鼻孔狭窄症」や、軟口蓋が通常より長く気道を塞いでしまう「軟口蓋過長」、喉頭小嚢の外転、喉頭虚脱、気管低形成などがあり、これらの内ひとつもしくは複数が組み合わさり症状が現れます。

気道に異常があると一生懸命呼吸をする必要があり、気道に負担がかかり、口呼吸をする場合があるのです。

シニア犬

犬も年齢を重ねると、体のさまざまな機能が低下し、筋力や心肺機能が衰えてきます。

そのため、少し走っただけでも疲れ、「ハァハァ」と息切れを起こし、口呼吸をしやすくなってしまいます。

これは、加齢による身体機能の低下が原因のため、特に問題となる口呼吸ではありません。

犬の口呼吸から考えられる病気

特別な心配が必要のない口呼吸もありますが、もちろん注意しなければいけない口呼吸もあります。

口呼吸が長く続くケースや、雑音の交じる口呼吸、息苦しさなどが見られるときには注意が必要です。

熱中症

気温や室温が上がりすぎてしまうと、パンティングだけでは体温の上昇が抑えられなくなり、犬も人と同じように熱中症(ねっちゅうしょう)になってしまいます。

熱中症の恐ろしいところは、対処が遅れると内臓や脳の機能障害などの後遺症が残ったり、時間が経つほど悪化していき、最悪の場合は死亡するリスクがあるところです。

真夏には人間の熱中症が多く聞かれますが、実は非常に危険な病気なのです。

真夏の炎天下での散歩を避けたり、室内でも日陰になるところに移動できるようにしておく、水分補給がきちんとできるようにしておくなどの対策が必要です。

気管虚脱

気管虚脱(きかんきょだつ)とは、気管の一部がつぶれて異常に狭くなり、呼吸がさまたげられる病気です。

特に小型犬で多く、症状としては息を吸うときに、「ガーガー」という雑音がします。

この病気は進行性で気管は段々狭くなり、重症化すると粘膜が紫色になるチアノーゼや呼吸困難を起こすこともあるのです。

発症年齢は若齢から高齢までさまざまで、グレードも4つほどにわけられます。

仮にグレード4にまでなってしまうと、手術でさえも手遅れになってしまうほどなので、早期発見が重要です。

肺水腫

肺は吸い込んだ空気から酸素を取り込み、不要な二酸化炭素を排出する重要な役割を担っています。

そのため、肺に異常が生じて、その役割が果たせなくなると息苦しくなり、口呼吸という症状が出てきます。

肺水腫(はいすいしゅ)は、肺に水が溜まる病気で、その大半が心臓病によって引き起こされます。

心臓病になると、心臓が正常に働かないことで、肺に水が溜まってしまうのです。

僧帽弁閉鎖不全症

僧帽弁閉鎖不全症(そうぼうべんへいさふぜんしょう)は、中高齢の小型犬に多く見られる病気です。

僧帽弁とは、心臓の左心室と左心房の間にある弁で、左心房から左心室へと送り出される血液の循環にそって開いたり閉じたりしています。

しかし、僧帽弁閉鎖不全では、この僧帽弁が上手く閉じなくなり、左心室から左心房へ血液の逆流が起こります。

初期段階では無症状ですが、心臓が酸素を含む血液を体に送り出すことができません。

進行すると運動を嫌がるようになったり、食欲不振や咳がみられ、重症化すると肺水腫という状態になり、口呼吸や呼吸困難がみられようになります。

誤嚥性肺炎

肺炎の原因の多くはウイルスや細菌感染ですが、食べ物が食道ではなく、間違えて気管に入ってしまった場合には誤嚥性肺炎(ごえんせいはいえん)を起こします。

犬が誤嚥性肺炎になると、咳や発熱、食欲がなくなったり、さらに重症化すると口呼吸や呼吸困難を引き起こし、命にかかわるおそれがあるのです。

特に強制給餌が必要な子や、介護時などは誤嚥しやすくなるため、基礎疾患を持っている子は特に注意が必要です。

分離不安症

犬の分離不安症(ぶんりふあんしょう)とは、飼い主から離れることに強いストレスや不安を感じる状態のことです。

愛犬が分離不安になる主な原因はさまざまあります。

留守番中に部屋を荒らす、物を破壊する、粗相をする、自分の足を噛むなどの自傷行為をする、吠え続けるといった行動がみられます。

また、強い不安から、ハァハァと口呼吸を行ったり、留守番中や帰宅後に体調を崩すこともあるのです。

異物誤飲(いぶつごいん)

異物が喉や食道に詰まってしまう異物誤飲(いぶつごいん)では、犬が苦しくなり、パンティングや体全体で呼吸をする努力性呼吸がみられます。

早い段階で吐ければケロッとしていることもありますが、基本的には緊急を要す状況で、早急に動物病院で受診しなければなりません。

可能であれば何をいつ頃、どれくらい食べたのかを獣医師に報告しましょう。

犬にとって危険な口呼吸の見分け方

フレンチ・ブルドッグ

以下のようにあきらかに呼吸状態がおかしいときには、すぐに動物病院に連絡をして、一刻も早く受診するようにしましょう。

自己判断で様子を見るのではなく、緊急性が高いケースも考えられるため、素早い判断が大切です。

口呼吸が長時間続いている

体温調節など生理的な問題のない口呼吸であれば、時間が経てば収まります。

しかし、口呼吸が長時間続く場合には病気が潜んでいる可能性があるため注意が必要です。

運動や興奮をしていなく、体温調節が必要ないのに口呼吸している

パンティングは、運動時や暑いときなどに体温調節をするための生理現象ですので、問題はありません。

しかし、安静時や涼しい環境においても犬がパンティングを行っている場合は注意が必要です。

口呼吸をするときに異常な音が混ざっている

口呼吸をするときに「ゼーゼー」「ヒューヒュー」「ガーガー」といった異常な音が混ざっているときには、気管虚脱などの病気の疑いがあります。

呼吸音は静かなときにしか気づきづらいものなので、普段から愛犬の呼吸音を定期的にチェックしておきましょう。

苦しそうに呼吸をしたり、多量のよだれをたらしている

犬が息苦しさを感じると、不安からそわそわして落ち着きがなくなったり、多量のよだれをたらすようになります。

そして、呼吸が段々と荒く早くなり、口を開けてハァハァと苦しそうに呼吸をしたり、呼吸を楽にしようと肘を外側に向けた姿勢や首を伸ばした姿勢で呼吸するようになるのです。

普段よりも呼吸数が多い

涼しい環境で1分間の呼吸回数が40回以上の場合や、正常時より呼吸数が多い場合には異常といえます。

呼吸数の確認には胸に手をあてて上下することを確認します。

一度上下したら1回の呼吸としてカウントしますが、数秒間の呼吸数を倍計算してカウントすると良いでしょう。

落ち着きがない、全身に震えが見られる

パンティングをしながらウロウロと歩き回って落ち着きがない、全身に震えが見られる場合には、心理的なストレスを感じている可能性があります。

舌が紫色、白っぽい色になっている

犬は、呼吸器や循環器に何かしらの病気を抱えていると、酸素不足になり、苦しさから口呼吸をするようになります。

しかし、口呼吸をしても十分な酸素を得ることはできないため、血中の酸素濃度が低下し、舌の色が白色や紫色になるチアノーゼという状態がみられるのです。

犬の口呼吸の対処法・予防策

最後に、口呼吸の対処法と対策についてご紹介していきますので、ぜひ参考にしてください。

一時的な口呼吸なら心配なし

運動時や暑いときなど、一時的な口呼吸なら問題はありません。

前述の通りパンティングであると考えられ、すぐにおさまるケースが多いです。

しかし、なかには熱中症のように症状として口呼吸を伴う病気もあるため、涼しい環境や安静時でも犬が口呼吸する場合には注意が必要です。

運動や散歩後、暑い場所にいた後にはすぐにおさまるのか、落ち着くまで様子を見てあげましょう。

熱中症の場合は、応急処置後すぐに病院へ

真夏に空調をつけていなかったなど、熱中症が強く疑われる状況であれば、以下の順で応急処置を行います。

愛犬の状態が落ちついたら、首や脇を保冷剤などで冷やしながら、すぐ動物病院を受診しましょう。

応急処置

① 涼しい場所に移動させる

② 水や濡らしたタオルで全身を冷やす

③ 扇風機やクーラーで風を当てる

④ 水を飲ませる

⑤ 愛犬の状態が安定したらすぐに動物病院へ

熱中症の場合、すぐに体を冷やすことが大切ですが、冷やしすぎにも注意が必要なため、事前に詳しい手順を理解しておくと良いでしょう。

病気の疑いがある場合はすぐに病院へ

口呼吸はさまざまな原因により起こりますので、なにが原因となっているか自己判断は難易度が高いのです。

原因を探すことが、解決への一番の近道ですが、飼い主さんにとっては難しいと思います。

犬が口呼吸をしていて、心配な場合には動物病院を受診し、獣医師に相談しましょう。

ストレスや不安の原因を取り除いてあげる

環境の変化などがあった場合には、ストレスや不安により口呼吸を行っている場合があります。

そのようなときには、環境からストレスや不安の原因を取り除いてあげて、口呼吸が落ち着くか観察しましょう。

犬は人間以上にストレスを感じやすい動物なので、ちょっとした環境の変化がなかったか確認してみてください。

室内を適温、清潔に保つ

室内が暑いと温度調整のためにパンティンングをしたり、鼻に感染やアレルギー、異物による炎症が起こると鼻詰まりを起こし、口呼吸になることがあります。

そのため、室内は犬が快適に過ごせる温度に設定し、清潔に保つことが大切です。

一般的に犬の過ごしやすい気温は人間と大きく変わらず、20℃~28℃の室温を保ち、湿度は50%~60%を維持するようにしましょう。

この記事の執筆者・監修者

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北里大学獣医学科を卒業後、出身の高知県近県である香川県の動物病院にて、小動物の診療に携わる。
結婚を機に、都内の獣医師専門書籍の出版社で編集者として数年勤務し、現在は動物病院で時短で獣医師として働く傍ら、犬・猫・小動物系のライターとして活動している。

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