人間と一緒に暮らす上で愛犬が噛む、ということはさまざまなトラブルを招くことがあります。
身を守るためだったり何かを運ぶためといった正しい理由に基づく場合は、手を使えない代わりに口を使って何かをすることは愛犬にとって自然なことでもあります。
「愛犬の噛み癖で困っている」という飼い主さんは時折みられますが、特に犬と一緒に暮らすのが初めてだったり、経験者に関係なく心配だったり悩みの種になってしまいますよね。
この記事では犬が噛むことについて、しつけや噛む行為への対処法の例についても説明していきます。
この記事の結論
- 犬にとって噛む行為は、生きていくうえで必要な行為のひとつ
- 飼い主さんを噛むのは、ストレスや興奮、自己防衛などさまざまな理由がある
- 愛犬が自分自身を噛んでいる場合は、病気やケガをしている可能性も
- 噛み癖は噛む理由を把握して、適切にしつけてあげることが大切
獣徳会 獣医師
NPO CANBE 子どものための動物と自然の絆教育研究会:理事
NPO 子ども支援センター つなっぐ:理事
一般財団法人:クリステル・ヴィアンサンブル アドバイザー
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目次
犬にとって噛むことはごく自然な行動

犬にとって噛むという行動は、攻撃するためだけのものではありません。
人間のように自由に手を使えない分、口を使って器用にものを運びます。言葉を話せない分、おもちゃなどを噛むことでストレスを発散しています。
つまり愛犬にとっては噛むことはごく自然であり、生活の上で必要なこと。
噛むことはさまざまな場面で見られるので、決して特別な行為ではないことがわかります。
まずは飼い主さんがこれを理解し、どういった場面で噛むのか、その原因と行為に対しての解決策を見つけていく必要があります。
生活の中ではトラブルに繋がることもある
犬種や体の大きさでも差は当然ありますし、犬の噛む力は強く、歯は尖っています。本気で噛まれてしまうとケガにつながってしまう恐れがありますよね。
自分や家族だけならまだしも、状況によっては他人をケガさせてしまう可能性すらあります。
噛むことは犬にとって必要な行動のひとつなので、その行動が人との生活の中で問題がないようにすることが重要です。
私たちが愛犬との生活をする上で、人間社会で共に暮らすマナーも守っていくために、攻撃性に伴うものかどうかは最も重要な問題です。
愛犬のそれぞれの行動に基づく理由や背景を知り、対処法を見つけてあげることが必要になります。
最も重要なことは「人を噛む」経験をさせないこと
人を攻撃的に噛む、という行為は通常、穏やかに幸せに暮らしている犬にとっては起こりにくい問題行動です。
一度このような経験をすると、それが思いもよらない形で強化されてしまうこともあります。まずはこれを経験させないことが重要です。
そのためしつけ教室などに参加することで、十分な社会化と適切なしつけトレーニング、よい環境のもとで絆を深めることが一番の予防になると考えています。
もし「人を噛む」という問題行動に繋がってしまう場合は、飼い主さんの行動に原因があったのだと認識する必要があるでしょう。
飼い主さんは愛犬が噛む理由や状況を知ることが大切
まずはなぜ噛むのか?ということをきちんとわかってあげることが重要です。
飼い主さんが家族である愛犬の気持ちを分かろうとしなければ、根本的な解決には繋がらないでしょう。
犬が噛んでしまう理由はひとつだけではありません。どんな場面で噛む行為が起きているか、しっかり観察することも大切になります。
犬は「なぜ噛むのか?」という点を理解し、適切に対処することで愛犬をトラブルから守ってあげられるようにしましょう。
本気噛みか、甘噛みかを判断する
「愛犬に噛まれる」といっても、それが攻撃性を感じるような本気噛みなのか甘噛みなのかによって、理由や対処法も変わってきます。
甘噛みとはじゃれるように噛む行為のことで、本気噛みとは違って痛くないことが大半です。
言葉を使ってコミュニケーションを取ることができず、手を使って器用に表現することもできない犬は、口を使って表現します。
そのひとつが甘噛みで、特別な危険性はないものの最初はビックリすることでしょう。
ただ、痛くない甘噛みだからといって放置しておくのもよくありません。
甘噛みであっても本気噛みであっても、理由や背景を知って適切な対応をしていくことが大切です。
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犬が飼い主を噛む主な理由

噛むという行為自体は、愛犬に悪意があって行っている行為とは限りません。
もちろん攻撃的な意思を持って噛むことも少なからずありますが、基本的には次のような意図があります。
- 犬の本能から
- 恐怖心から身を守るため
- 歯が生え変わって痒い
- ストレスを抱えている
- 興奮している
- しつけが不適切
噛んでしまう場所や場面から考えることで、愛犬が人に対して噛むことに繋がる原因や状況を予測し、徹底してその状況を避けるようにしましょう。
犬の本能から
まずは本能的につい噛んでしまうケースが考えられます。
寝ているときに急に触ったりしてはいないでしょうか?また愛犬から見えない角度である後ろからなど、触ってはいないでしょうか。
愛犬が予期せぬタイミングで触ってしまったとき「びっくりした」「おもちゃを取られたくない!」などと身を守るための行動として、反射的に噛んでしまうことがあります。
本能的に身を守る場合も攻撃として噛む場合も、一度覚えてしまうと直すことが難しい場合があります。
そういったときは、獣医師やドッグトレーナーなど専門家への相談も考えてみましょう。
具体的な犬の行動例・状況
- 子犬が遊びや探索の一環として、手足や家具などさまざまなものを甘噛みする。
- おもちゃの引っ張りっこで興奮し、誤って飼い主の手に歯が当たってしまう。
- 特定の獲物(おもちゃや動くもの)に対する狩猟本能から、勢いよく噛みつく。
飼い主の具体的な対応方法
強く叱るのではなく、「痛い!」「あっ!」など、短く分かりやすい声で伝え、遊びを中断します。
噛まれたら大声を出したり手を激しく振ったりせず、静かに手を引き、犬から離れます。興奮を煽らないようにしましょう。
噛んでも良い丈夫なおもちゃ(コングや知育トイなど)を十分に与え、噛む欲求を満たせるようにします。手で直接遊ぶのではなく、おもちゃを使って遊ぶように誘導します。
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恐怖心から身を守るため
人と同じく、さまざまな状況に適応しやすく、朗らかな性格の犬もいれば、とても怖がりで見知らぬ人に恐怖心を持ちやすいタイプの犬もいます。
ナーバスな状態がピークの場合、知らない人が触ろうとして恐怖心から噛む、ということが多くあります。
過去に棒などで叩かれる経験をした犬は、その棒を見るだけで攻撃することもあります。
家族や他人、他の動物や物など、さまざまなものが恐怖対象となり得ます。
怯えて物陰に隠れたり逃げるなどの行動の他にも、追い詰められれば身を守るために咄嗟に噛んでしまうことがあるのです。
人間も恐怖を感じたとき、咄嗟に降りかかるものを手で遮ったり押さえようとする、手で顔を覆ったりすることがあります。
愛犬が恐怖心から噛んでしまうことは、それと同じような行動と言えるでしょう。
具体的な犬の行動例・状況
- 寝ているところを急に触られたり、嫌がるお手入れ(爪切り、ブラッシングなど)をされたりした際に、唸ったり噛みつこうとしたりする。
- 見慣れない人や物に対して警戒し、近づかれると威嚇の唸り声を発し、さらに接近されると噛みつく可能性がある。
- 過去に嫌な経験(体罰、大きな物音など)があり、特定の状況や刺激に対して恐怖を感じて噛みつく。
飼い主の具体的な対応方法
落ち着いた、優しいトーンで「大丈夫だよ」「怖くないよ」などと安心させるような声かけをします。大声や命令口調は逆効果です。
犬が嫌がる状況や物からは距離を取り、無理強いはしません。犬が安心できる場所(クレートなど)を用意し、いつでもそこに避難できるようにします。
恐怖の原因となる刺激に徐々に慣らすためのトレーニングを専門家の指導のもとで行うことが有効です。安心できるブランケットやお気に入りのおもちゃを与えることも助けになります。
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歯が生え変わって痒い
子犬期には乳歯からの生え変わりの時期、むず痒さなどの違和感で飼い主さんの手や家具を噛んでしまうこともあります。
生後1か月頃から乳歯が生え始め、生後6か月~7か月頃には永久歯に生えかわります。
この月齢に噛んでくる場合は、歯がムズムズとして痒みがあるような状態になっている、ということが多いです。
人の赤ちゃんも乳歯が生えかけのときに「歯がため」を与えるようなこの時期、犬にも噛んでよいものを与えるようにしましょう。
具体的な犬の行動例・状況
- 生後4か月〜6か月頃の子犬が、手や家具、スリッパなど、さまざまなものを頻繁に噛む。
- 口元を気にするそぶりを見せる。
飼い主の具体的な対応方法
噛んではいけないものを噛んだら、「ダメ」「いけない」など短く伝えます。
噛まれたらすぐに噛んでも良いおもちゃを与え、そちらに興味を向けさせます。
子犬用の噛むおもちゃや、冷凍して与えられるタイプのおもちゃなど、歯茎の痒みを和らげるアイテムを用意します。誤飲の危険がない、安全なものを選びましょう。
ストレスを抱えている
どの程度のストレスが人への攻撃を誘発してしまうほどなのかは、それぞれの犬の社会化や性格などによって変わるものです。
恐怖心と同じように愛犬がストレスを抱えないようにすることは、イライラによる攻撃性を避けることに繋がります。
ストレスの要因はさまざまですが、「長時間つなぎっぱなしで運動不足・遊び不足、引っ越しや家族が増えるなどの生活環境の変化、運動や飼い主さんとの不適切な関係」なども原因になります。
愛犬がゆっくりと過ごせるような静かな寝床であるかを見直したり、散歩やスキンシップなどの一緒に過ごす時間を増やすなどの対処をしてみましょう。
何が愛犬のストレスになっているかを考え、気持ちを考えてあげることが大切です。
敏感な子は少しの変化でも影響することがあります。どんな原因があるのかを丁寧に探してあげることで、ストレスを取り除いてあげましょう。
具体的な犬の行動例・状況
- 運動不足や留守番時間が長い、環境の変化(引っ越し、家族構成の変化など)、騒音など、ストレスを感じる状況下で、手近なものや自分の体(手足の先や尻尾など)を執拗に噛む。
- 破壊行動(家具を噛み壊すなど)が見られる。
飼い主の具体的な対応方法
噛んでいる最中に感情的に叱るのではなく、まずは犬のストレスの原因を取り除くことに注力します。
ストレスサイン(あくび、体を掻く、尻尾を振らないなど)に気づき、犬がリラックスできる環境を整えます。
十分な散歩や運動時間、ノーズワークなど頭を使う遊びを取り入れ、ストレスを発散させます。安心して過ごせる休息場所(クレート、ベッドなど)を用意し、落ち着けるクラシック音楽などを活用することも有効な場合があります。
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興奮している
怖がって噛むこととは、荒っぽい遊び方で興奮し、攻撃的なスイッチが入っているといった場合でも、強く噛んでしまうことがあります。
本来は親や兄弟などの、犬同士のじゃれあいで噛む加減を覚えていきます。
しかし人間が愛犬に加減を教えるのは難しく、また親犬と離れる時期が早いとこの加減を学習できないまま育ってしまいます。
それでも、子犬の頃から噛んではいけないものを教えるようにしていく必要があります。
具体的な犬の行動例・状況
- 遊んでいる最中や来客時、散歩前など、嬉しいことや刺激的なことがあると興奮しすぎて、飛びついたり甘噛みがエスカレートして強く噛んだりする。
- 要求が通らないときに興奮して噛みつく(要求噛み)。
飼い主の具体的な対応方法
興奮してきたら、「ストップ」「落ち着いて」など、クールダウンを促す声かけをします。低い落ち着いたトーンで話しかけましょう。
興奮が収まらない場合は、一時的に無視したり、犬が落ち着くまで飼い主がその場を離れたりして、クールダウンさせます。興奮する状況を作る遊びばかりでなく、落ち着いて行うトレーニングなども取り入れます。
興奮をクールダウンさせるためのマットや、落ち着いてカミカミできるおもちゃなどを活用します。
間違ったしつけ
離乳期の早い段階で親犬や同腹の兄妹犬と離された場合など、他犬とのじゃれあいで噛む加減を学習できないことがあります。
しかし気をつけたいのが、誤ったしつけや不十分なしつけによる噛み癖です。
しつけとしてマズルを力任せに掴んだり、強く叩いてしまうという誤ったしつけを行うと逆効果です。
一時的に噛まなくなっても、攻撃されると思い、自分の身を守るために噛み癖がひどくなる子もいます。
さらに飼い主さん以外の人の手を噛むようになる可能性もあるので要注意です。
遊びの延長でも、噛む力が痛みを感じるほど強いときは、もう一度その遊び方や愛犬との関わり方を見直す必要があります。
具体的な犬の行動例・状況
- 過去に噛んだときに大声で叱られたり叩かれたりした経験があり、恐怖や警戒心から噛みつくようになる。
- 噛むことで飼い主が構ってくれたり、要求が通ったりした経験があり、「噛めば良いことがある」と学習して噛み癖がつく(要求噛みの一種)。
- 一貫性のないしつけにより、何が良くて何が悪いのかを理解できていない。
飼い主の具体的な対応方法
ポジティブな行動(噛まずにいられた、指示に従えたなど)をしたときに褒めることを重視します。「良い子」「そうそう」など肯定的な声かけを増やします。
噛まれたときに感情的に反応せず、冷静に淡々と対応します。望ましくない行動には報酬を与えない(無視するなど)という毅然とした態度をとります。
噛んでも良いおもちゃと噛んではいけないものの区別を教えるトレーニングを行います。成功したらおやつや褒め言葉で強化します。一貫したルールで家族全員が同じ対応をすることが非常に重要です。必要に応じて、ドッグトレーナーなどの専門家に相談し、適切な指導を受けることを強く推奨します。
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犬が自分の体を噛む主な理由

愛犬が自分の体を噛んでしまっていることはないでしょうか。
少々なら気にならなくても仮に舐める程度であっても、頻繁であったり強く噛んで傷つけてしまうことがあれば、皮膚や組織にダメージを与えてしまいます。
大きく分けて以下3点の原因が考えられます。
- 暇つぶし
- ストレス
- 病気やケガ
愛犬がいずれかに当てはまってはいないか、良く確認しましょう。
こうした行為も、飼い主さんの気を引こうとして行っている場合は「やめなさい」と近づくことでさえ、犬にとってのご褒美となって「舐める」ことを強化してしまうことがあります。
あまりにしつこく足を噛んだり舐めたりすると、毛の変色や皮膚炎にも繋がるため、不安が解消されない場合は動物病院を受診することも視野に入れましょう。
暇つぶしとして
犬は退屈になると四肢(手や足)の裏をペロペロと舐めたり噛んだりしてしまうことがあります。
前肢(前足)の舐めやすい場所を一生懸命に舐めているような場合は、暇つぶしの可能性が高いでしょう。
ケージに入れると足を噛んだりし始める・飼い主さんが就寝中や留守にしている間に噛むようなケースも多いです。
ひとりで退屈な時間を過ごすときに、暇つぶしで噛んだり舐めたりしてしまうことがあるのです。
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ストレスを抱えている
ストレスサインとして、犬は足を噛んだり舐めたりして気を紛らわせる場合も考えられます。
長時間の留守番や飼い主さんとのコミュニケーション不足など、ストレスがかかるようなことや環境について考えてみましょう。
例えば新しいペットをお迎えしたり、引っ越しをしたり、大きな音のする場所に行ったりはしなかったでしょうか。
人間の幼児の指しゃぶりも、同じような背景で起こっていることがあります。
ストレスの原因はさまざまで、色々なケースが考えられます。しかし普段から愛犬の様子をしっかりと観察して、何がストレスになっているかを見極めてあげる必要があります。
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病気や怪我をしている
病気や怪我が原因で噛んだり舐めたりしていることもあります。真っ赤になったり血が出るほど噛んでしまう場合は、動物病院を早めに受診しましょう。
アレルギーや皮膚炎などの痒みから噛んでいるケースが考えられます。痛みやしびれがあるために噛んでいることもあるでしょう。
骨折や打撲・手足の捻挫・爪が折れているなど、怪我が原因で手足に痛みがあると、患部を舐める・噛む場合があります。
また、関節炎や関節リウマチといった関節に痛みが出る病気では、関節を噛んでその部位を脱毛させてしまう場合もあります。
椎間板ヘルニアのような神経疾患や血栓塞栓症など、重篤な病気が隠れている可能性も考えられます。
舐めたり噛んだりとあわせて、以下のような症状がある場合は動物病院へすぐ連れていきましょう。
- 前足や後ろ足を引きずっている、または持ち上げるようにして歩く
- 手足が震えている
- 足先が冷たくて肉球の色が薄くなってきている
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犬の噛み癖を直す方法

では噛み癖に対して、私たち飼い主はどんなポイントに注意したら良いのでしょうか。
間違った対応をしたり、その理由や性格などをきちんと理解していないと、余計にひどくなってしまう可能性もあります。
しつけをすれば1日で直る、というわけではありません。
私たち飼い主が愛犬のタイプや性格を把握して、丁寧に行うことも必要です。
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愛犬の噛む理由を把握する
噛むことは犬にとって当然の行動なので、「なぜ噛むのか?」という理由をまずは確認しなければ改善は難しいです。
まずは痛みや病的な理由はないか、運動不足でストレスが溜まっているなら運動時間を増やす、皮膚病で全身が痒くイライラしているなら病院へ連れて行ってあげます。
なぜ噛むのか?を探り、それを改善することから始めなければいけません。
根本的な部分を解消しないとトレーニングの効果は出にくいです。
適切な対処ができるようにしっかり愛犬と向き合うこと、気持ちに寄り添うことがとても大切です。
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噛むおもちゃで欲求を発散させる
あまり抑え込まず、適度におもちゃを与えてエネルギーやストレスを発散させてあげることも大切です。
ロープ状のおもちゃは引っ張りあいっこをして一緒に遊べますし、噛んでも良いものを与えるとそれを噛んでくれるようになります。
留守中や愛犬から目を離すときは、おやつ内蔵型のおもちゃを与えるのもおすすめです。
噛むこと自体をやめさせるのではなく、噛んでも良いものを覚えてもらうという方法です。
静かな声で叱る
愛犬が手や足を噛んできたら、低く静かな声で「ダメ」「痛い」といった短いコマンド(合図)で叱るのもひとつの方法です。
いろいろな言葉を使用すると愛犬が理解できなくなるので、使用するコマンドはひとつに統一しましょう。
高い声や笑いながら言うと、飼い主さんが楽しんでいると勘違いして逆効果になるので注意してください。
また、後述していますが大声で叱るというのもNG。飼い主さんもヒートアップしないよう、冷静に低く静かな声で叱ります。
噛まれたらすぐにその場を離れる
どんな理由があったとしても、飼い主さんにとって愛犬に噛まれることは良いことではありません。
そのためもし噛まれたならば、すぐにその場を離れて、愛犬とは距離を取るようにしてみてください。
犬自身は「遊んでいるつもり」「構って欲しいから」という理由で噛んでいたとしても、飼い主さんがいなくなってしまえば構ってもらえません。
「噛まなければ遊んでもらえる」「噛んでしまうと遊んでもらえない」ということを理解してもらうと良いです。
体に異常があるときは動物病院へ
触られることを極端に嫌がったり体の震え・触ると痛がる様子などいつもと違う状態にある場合は、早めに動物病院を受診しましょう。
愛犬の体に痛みや不調があるために攻撃性が高まり、噛んでしまうことが起きている可能性も考えられますよ。
いつまでも不調が続くのは愛犬にとって本当につらい状況です。
体に異常がある場合も視野に入れて、適切かつ迅速な対応ができるようにしましょう。
愛犬が健康・元気でいられる環境であれば、トレーニングの効果も出やすいのではないでしょうか。
犬の噛み癖レベル別対応策

犬の噛み癖は、その強さや状況によってレベルが異なります。レベルに合わせた適切な対応を行うことが、改善への近道となります。
軽度な甘噛みから攻撃的な噛みつきまで、段階を追って解説しますので、深刻度を把握してみましょう。
レベル1:軽度な甘噛み(遊びや探索、歯の生え変わりなど)
特徴・状況
歯が人や物に軽く当たる程度で、傷つけようとする意図は低いことが多いです。特に子犬によく見られ、遊びや好奇心、口の周りのむず痒さを解消するために起こります。
考えられる主な原因
- 遊びや探索行動の一環
- 歯の生え変わりによるむず痒さ
- コミュニケーション不足
具体的な対応策
犬の行動例 | 遊んでいる最中に手や服を軽く噛む、家具の角やスリッパを噛む。 |
声かけ | 噛まれた瞬間に「痛い!」「アッ!」など短く制止する声を出します。 ただし、大声で犬を怖がらせないように注意しましょう。 |
体の動かし方 | 噛まれた手や体を静かに引き、その場から離れるか、遊びを中断します。 噛む行動と楽しいことが中断されることを関連付けさせます。 |
使うアイテム | 噛んでも良い安全なおもちゃ(コング、ロープ、知育トイなど)を十分に与え、噛む欲求を満たせるようにします。 手を使った遊びは避け、おもちゃを使った遊びに誘導します。 |
避けるべきこと | 噛まれたときに手や体を激しく動かしたり、大声で騒いだりすることは、犬をさらに興奮させたり、遊びだと勘違いさせたりする可能性があるため避けましょう。 |
専門家への相談目安
この段階であれば、多くの場合は家庭での適切な対応で改善が見られます。ただし、改善が見られない場合や、他の問題行動が見られる場合は相談を検討しましょう。
レベル2:やや強い甘噛み・要求噛み(興奮、要求、遊びのエスカレートなど)
特徴・状況
甘噛みよりもやや力が入り、痛みを感じることがあります。遊びがエスカレートした結果や、何か(散歩、ごはん、注目など)を要求するために噛むことがあります。
考えられる主な原因
- 遊びのルールが理解できていない
- 要求が通ると学習した
- 興奮のコントロールができていない
具体的な対応策
犬の行動例 | 遊び中に強く噛むようになる、ごはんの準備中や散歩前に興奮して足元や服を噛む、撫でるのをやめると手を噛んでくる。 |
声かけ | レベル1と同様に短く制止する声を出します。 それに加えて、落ち着かせるような声かけ(例:「落ち着いて」)も行います。 |
体の動かし方 | 噛まれたらすぐに遊びや関わりを中断し、犬から離れます。 要求で噛んできた場合は、その要求には応じません。 犬が落ち着いてから再度関わるようにします。 |
使うアイテム | 興奮をクールダウンさせるトレーニングを取り入れます。 落ち着いて待つ練習や、特定の合図でクールダウンさせる練習などです。 噛む代わりにカミカミできるおもちゃを与え、そちらに誘導することも引き続き行います。 |
避けるべきこと | 噛まれたことに報いる形で要求に応じる(例:噛まれたから散歩に行く、ごはんをあげる)ことは、噛む行動を強化してしまうため絶対に避けましょう。 |
専門家への相談目安
家庭での対応で改善が見られない場合や、要求噛みが頻繁に見られる場合は、問題が悪化する前にドッグトレーナーに相談することをおすすめします。
レベル3:警告としての噛みつき(唸る、歯を見せるなどの威嚇+噛みつき)
特徴・状況
唸り声、歯を見せる、体を硬直させるなどの警告サインの後に噛みつくことが多いです。痛みを感じることが多く、場合によっては軽い傷になることもあります。これ以上近づかないで、やめてほしい、という強い意思表示です。
考えられる主な原因
- 恐怖心、不安
- 痛み、体調不良
- 縄張り意識、所有物への固着
- 過去の経験(体罰など)
具体的な対応策
犬の行動例 | 寝ている場所や特定の物(ベッド、おもちゃなど)を守ろうとして唸り、近づくと噛みつく。 手入れをしようとすると唸って噛みつこうとする。 見知らぬ人が近づくと唸る。 |
声かけ | 警告サインが見られたら、それ以上刺激しないように静かにします。 安心させるような優しいトーンで声をかけることは有効な場合もありますが、犬がより警戒する場合は無理に行いません。 |
体の動かし方 | 犬が警告サインを出したら、すぐに距離を取り、犬が嫌がることや、守ろうとしている物・場所から離れます。 無理に触ったり、犬を追い詰めたりすることは絶対に避けましょう。 |
使うアイテム | 犬が安心して過ごせる安全な場所(クレートなど)を用意します。 恐怖や不安の対象に徐々に慣らすためのトレーニングを専門家の指導のもとで行います。 必要に応じて、行動修正のための補助具の使用を検討しますが、これは専門家の指導のもとで行うべきです。 |
避けるべきこと | 警告サインを見逃したり無視したりすること、体罰で押さえつけようとすること、犬を怖がらせるような行動をとることは、状況を悪化させる可能性が非常に高いです。 |
専門家への相談目安
警告としての噛みつきが見られた場合は、早急にドッグトレーナーや行動治療に詳しい獣医師に相談することを強く推奨します。原因の特定と適切な行動修正プランの作成が必要です。
レベル4:攻撃的な噛みつき(強い力で傷つける意図のある噛みつき)
特徴・状況
明確な攻撃意図や強い恐怖心から、人や他の動物に重傷を負わせる可能性のある強い力で噛みつきます。唸りなどの警告サインがない場合や、非常に激しい反応として現れることがあります。
考えられる主な原因
- 強い恐怖心、パニック
- 深刻な社会化不足
- 脳機能やホルモンバランスの異常(病気)
- 遺伝的な要因
- 過去の深刻なトラウマ
具体的な対応策
犬の行動例 | 突然噛みついて離さない、繰り返し噛みつく、人や他の動物に向かっていく。 |
声かけ | パニックにさせないよう、落ち着いた声で指示が出せる場合は指示を出しますが、無理な場合は静かに対応します。 |
体の動かし方 | まずは安全確保を最優先します。犬を落ち着かせるためのスペースに誘導し、それ以上被害が広がらないようにします。 犬が興奮している場合は、刺激を与えないように距離を取ります。 |
使うアイテム | 安全な環境で管理できるよう、丈夫なケージやリード、必要に応じて口輪などを使用します。 ただし、口輪などの使用は専門家の指導のもと、適切に行う必要があります。 |
避けるべきこと | 素手で止めに入ったり、犬を叩いたり蹴ったりするなど、犬をさらに興奮させたり攻撃性を高めたりする行動は非常に危険です。 |
専門家への相談目安
このレベルの噛みつきが見られた場合は、家庭での対応は非常に難しく危険を伴うため、直ちに専門家(行動治療に詳しい獣医師や経験豊富なドッグトレーナー)に相談し、専門的な診断と指導を受けることが絶対的に必要です。
状況によっては、投薬療法と併行して行動修正を行う場合もあります。
どのレベルの噛み癖であっても、犬の行動の背景にある理由を理解しようと努め、一貫性を持って対応することが重要です。
特にレベル3以上の警告を伴う噛みつきや攻撃的な噛みつきが見られる場合は、必ず専門家のサポートを受けてください。早期の対応が、問題解決と愛犬との安全な共生につながります。
犬の噛み癖トレーニング時のNG手段

噛み癖対応の際に、やってはいけない注意点をご紹介します。
ついついやってしまう飼い主さんもいますが、間違った対応をしてしまうと取り返しのつかないトラブルを招く恐れもあります。
愛犬と楽しく健やかな毎日を送ることができるよう、注意したいポイントについてもしっかりとチェックしましょう。
大きな声で叱る・叩く
大きな声で怒鳴ったりすること、愛犬の体を叩いたりすることは絶対に控えるようにしましょう。
これはしつけをする上で、最も注意を払わなければいけない点です。
大声を出して叱ることや叩くことで、人間に対する恐怖心や攻撃性を高めることに繋がります。
そして警戒心や防衛反応から行為がさらにエスカレートする危険性があるのです。
たとえ愛犬が全面的に悪いような場面でも、感情のままに怒ったら怯えてしまうだけ。愛犬には「毅然とした態度」で示さなければ伝わりません。
噛まれたくないものは片づけておく、突然顔の前に手を出さないなど、「噛まれない対策」を飼い主さんが事前にしてあげることも大切です。
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誤飲する危険のあるものを噛ませる
破れたり壊れているおもちゃは誤飲の原因にならないよう、飼い主さんが見ている間だけ遊ばせ、お留守番やのときは片づけておきましょう。
破損部分でケガの恐れがあるおもちゃは、一部が欠けて飲み込みやすくなることもあるため、すぐに破棄することをおすすめします。
食品のニオイがついたビニール袋などで遊びたがる場合もありますが、犬の尖った歯で噛めばすぐ破れてしまいます。
誤飲は命の危険に関わる場合もあるため、おもちゃの安全性についてはしっかりと注意を払うようにしましょう。
犬用のおもちゃは多種多様に販売されています。愛犬の好みはもちろんですが、強度や安全性などもきちんと考慮して選んであげましょう。
これについても動物病院のスタッフなどに相談すると、よいものを提案してもらえることがあります。
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噛まれてから要求を解消する
愛犬に噛まれてから状況を理解し、愛犬がして欲しいことをしてしまうと「噛めば要求が通る」と認識してしまいます。
そうするとこれを学習してしまい、なにかの要求がある際にはそのたびに噛んでくるようになることもあるのです。
噛むことをやめてから要求を解消するようにし、噛んですぐに対応しないように徹底しましょう。
「噛んでも要求は通らないが、噛まなければ要求が通る」と覚えてもらわなければいけません。
攻撃性のある愛犬の噛みつきは早めにプロに相談

「本能的に噛みついてしまう」という場合や、自己判断でいくらしつけを行ってもなかなか改善しないことも考えられます。
万が一、人やほかの犬に怪我を負わせてしまったら、最悪の場合には一緒に暮らすことができなくなってしまうこともあります。
攻撃性のある噛みつきが起こる場合は、早めに専門家であるしつけインストラクターや、行動学の専門獣医師に相談することも考えましょう。
獣医行動学に基づく、科学的な理論や補助的な薬物を上手に使って、丁寧に修正することが必要なこともあります。
飼い主さんでは難しい場合でも、プロである専門家の意見を取り入れることで、改善しやすいケースが多くあります。
愛犬が噛んでしまうと愛犬自身だけでなく、飼い主さんもストレスになってしまいます。
大切な家族である愛犬との穏やかに生活するために、そして予期せぬトラブルを回避するためにも、深刻な場合は専門家の力をかりて解決を目指しましょう。
この記事の執筆者・監修者
獣徳会 獣医師
NPO CANBE 子どものための動物と自然の絆教育研究会:理事
NPO 子ども支援センター つなっぐ:理事
一般財団法人:クリステル・ヴィアンサンブル アドバイザー 小動物臨床の他、カナダで動物福祉教育を学ぶ。
保護犬猫の支援活動や児童施設、小児病棟などでのドッグセラピー、教育プログラムや多職種連携で被虐待児へのサポートとして、付添犬の活動にも取り組んでいます。
nademo編集部
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